災害に見舞われたとき、危険から身を守るために設置される避難所。利用した経験がある人も、ない人も、避難所にどんなイメージを持っていますか?
今回のmachico防災部は、ゲストアドバイザーに仙台市地域防災リーダーの若生 彩さんを迎え、仙台市立荒町小学校で避難所体験を実施。5名のmachico会員さんと一緒に現在の避難所事情や備蓄品の内容、おうちでの防災にも役立つ工夫などを学びました。
防災は特別なものではなく、もはや日常。皆さんもぜひ、日頃の備えに役立ててください。
この企画は、「災害文化」の創造・発信を目指す仙台市との共同事業です。
「災害文化」とは、災害とともに生き、災害を乗り越える術を持った社会文化のこと。いつどこで起こるかわからない自然災害から生き延びるためには、日頃から災害時のリスクを想定し、命を守るための意識や行動を身に付けておく必要があります。仙台市では、この災害文化を市民と一緒に深め、未来のために発信していこうとする取り組みが始まっています。
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今回教えてくれたのは…
特定非営利活動法人防災士会みやぎ 副理事長/仙台市地域防災リーダー(SBL) 若生 彩さん
荒町地区のSBLとして、これまでに3度、実際に避難所対応を行った経験があるほか、
県内各地で防災に関する講演やワークショップも行っている防災のプロです!
避難所体験はクイズからスタート。
若生さん 「地震の際、震度いくつ以上で避難所が開設されるか知っていますか? ①震度4 ②震度5 ③震度6 のどれでしょうか」
――正解は③の震度6以上。
仙台市の場合、市内で震度6弱以上の地震が発生した時には、すべての指定避難所で開設に向けた準備が行われます。
地震だけでなく、大雨警報・土砂災害警戒情報が発令されるなど、洪水や土砂災害の恐れがあるときや、津波警報・大津波警報が発令された場合も、エリアに避難が必要な人がいる場合は避難所が開設されます。
ただし、家が壊れた、もしくは壊れる危険性がある人以外で、自宅が安全な場合は、在宅避難が望ましいとされています。その理由について、これから見学と体験を通して学びましょう。
荒町小学校では、階段下の倉庫と屋外の物置に備蓄品を保管しています。避難所となる体育館には、開設準備に必要な備品が保管されています。
倉庫の中には、アルファ米やクラッカー、水、毛布、カイロなど、さまざまな物資が積まれていますが、その量は想像していた以上の少なさ!
特に食品は、クラッカー1袋やアルファ米1袋も1食と換算して、2,680食。1日3食の場合、893人分しかありません。地域の人全員がお腹を満たすことは難しそう…。
「最低限の量しか置かれていないんですね」と、皆さん驚きの様子。
また、学校の体育館は広いとはいえ、世帯ごとにある程度のスペースが必要です。そのため、荒町小学校の場合は収容人数が200人ほど。
それ以上の人数になったときは、地区ごとに教室を振り分けて避難することになっています。
倉庫見学の後は、備蓄物資の段ボール箱にどんな物が入っているのか、その一部を実際に確認しました。
おかゆやクラッカー、水に加えて、常温のまますぐ食べられるカレーライスも。「アルファ米は熱湯でよく混ぜると均等に戻すことができますよ」と、作り方の伝授も。長期保存ができる羊羹は、手軽なエネルギー源です。
これらの非常食は賞味期限が切れないよう、定期的に入れ替えを行っています。
アルミ袋には、寒い時期に欠かせない毛布が真空状態で入っていました。体育館は広い上に床から冷気が上がってくるので、寒さ対策は必須。毛布は掛けるだけでなく敷いて使うのも防寒の一つですが、避難所にある毛布の数は十分ではありません。
「避難所に来れば物が揃っているから安心」と思いがちですが、不自由が多いのが現実。毛布が行き渡らず寒い思いをしたり、タオルがなくて雨で濡れた体をふけなかったりしないよう、自宅から持ち込むと安心です。
また、現状では、生理用品やおむつは避難所の備蓄にはなく、必要に応じて届く仕組みになっています。すぐには手に入りませんし、人によって好みもあるので、使い慣れているものを持参しましょう。
ライフラインが止まったとき、特に困るのがトイレです。前回の「100円ショップのダイソーで防災グッズをそろえてみよう!」でも、トイレの重要性と災害時のポイントについて教えていただきましたが、災害直後は排水管が破損していないことが確認できるまで汚水を流すのはNG。
「そんなときに」と、若生さんが手にしたのは段ボール箱。2ℓペットボトル6本が入る大きさです。こちらは、同じサイズの箱を2枚重ねて上部の蓋を折り、周囲を補強した手作りの「簡易トイレ」。
ビニール袋をかぶせて用を足し、済んだら袋ごとポイ。袋の中には安価で吸水性のあるペット用シーツを敷くのがおすすめです。実際に座ってみると「思った以上に安定していて、高さもちょうどいい」という反応が。
さらに、ペットボトルのキャップに画びょうで穴を空けると簡易シャワーになり、少量の水で手を洗うことができます。災害時の水はとても貴重。緊急事態を乗り切るには、知恵と工夫が大切です!
荒町小学校の場合、体育館の一部に太陽光で点く照明があり、常夜灯としての役割を担いますが、避難所や自宅の状況によっては、真っ暗で夜を過ごさなければいけなくなる可能性もあります。
そこで、若生さんが教えてくれたのが100円ショップのLEDライトを使ったアイデア。LEDライトは長時間利用できて省電力。
ライトの上に水が入ったペットボトルを載せたり、コピー用紙を折ってライトを囲んだりすると、光が広がってランタンに!トイレや廊下の照明にも活用できます。
続いては、体育館に設置したパーテーションに入って、パーソナルスペースを体感!
避難した人の数によっても変わりますが、一家族のスペースは、2m四方が基準。現在は感染症対策のため、2mの間隔を空けて設置することになっています。
実際に入って寝てみると…「アルミシートがあっても下からの冷気を感じます」。「2m四方は、仲のいい家族じゃないと無理かも」。「パーテーションがあってもプライバシーの確保は難しそう」との声が。
仕切りがあるとは言え、避難所は雑魚寝で夜を明かすことになります。自分自身でリスク管理をするのも、避難所で過ごす際の心得の一つです。
避難所体験の最後は、簡易トイレ作り。学校のトイレを借りて、仙台市の備蓄品にある袋状の簡易トイレを設置します。
便座を上げてゴミ袋を便器にかぶせたら、便座を下げ簡易トイレの袋を設置。
袋の内側には吸水シートが貼られているので、使用後は袋をしっかり縛って捨てるだけ。
若生さんのレクチャーを受けて順番に設置体験。「思ったより袋の作りがしっかりしているんですね」。「簡単にできるとわかって、防災グッズに加えたいと思いました」と皆さん。
約1時間半にわたる避難所体験はこれにて終了。5名の会員さんは、若生さんの話にも熱心に耳を傾け、時折スマホで写真を撮るなど積極的に参加していました。
若生さん 地震はいつどこで起きるか分かりません。いざという時に皆さんが安全に過ごせるよう、普段から備えておきましょう。災害への備えは、何もないときにしかできませんよ。
参加してくれたmachico会員さんから、避難所体験の感想をうかがいました。
若生さんからワンポイントアドバイスもいただきました!
ニョキニョキさん
避難所を利用した経験がなく、いざという時にどう行動すべきか常々考えていたので、今回のお話や貴重な体験がとても参考になりました。万が一のとき、避難所で何かお手伝いができれば、と思っています。
若生さん
防災訓練や地域の行事などに参加して、常日頃から地域の人と交流し顔見知りになっておくと、地域の方にとってもいざという時にお手伝いをお願いしやすくなると思いますよ。
おじゃさん
私も、避難所でできることがあればお手伝いをしたいと思っていますが、子どもが大きくなり、地域の人とつながりがなくなってしまって…。でも、機会を見つけてつながりを作っておこうと思います。
若生さん
仙台には「社会学級」という、市内の全小学校で開設される生涯学習の場があります。小学校区に住む成人なら誰でも参加でき、地域の方や校長先生とも顔見知りになれるので、ぜひ参加してみてください。
なおぷーさん
転勤族ということもあり、これまで大きな災害に遭うこともなく、困った経験もありませんでした。これまでは、避難所は着の身着のままで行ってOKだと思っていたので、反省です。防災を見直す機会になりました。
若生さん
実際、避難所には何も持たずにいらっしゃる方もいました。食糧も毛布も限られた数しかありませんから、自宅が安全な場合は在宅避難がおすすめです。自宅には1週間分の食料や水の備えがあると安心ですよ。
はっしーさん
私は実家暮らしなので、自分自身で災害の備えについて考えることがありませんでした。今回とてもいい体験ができたので、帰ったら家族に共有して、防災グッズも見直したいと思います。
若生さん
家族との連絡方法や集合場所を決めておくことも大切です。災害時は電話がつながりにくく、停電で充電ができないことも。事前に話し合っておくといいと思います。
ふるるさん
東日本大震災のときは、祖母の家で不便なく過ごしていました。避難所には何でもあって、むしろ避難所の方が物資も充実していると思い込んでいたので、意識を改める機会になりました。
若生さん
薬やメガネなど、備蓄品では対応できない、個々人にとって必要なものもあります。たとえば、薬は余分に持ち歩くなど、自分にとって何が不可欠なのかを考えておくといいですね。
今回の避難所体験では、全員が備蓄品の少なさにびっくり。と同時に、いざという時に活用できるアイデアには興味津々!
災害に遭ったときは、家屋の倒壊など身の危険がある場合は迷わず避難所に向かい、自宅が安全な場合は在宅避難を。可能な範囲で在宅避難をすることも、避難所の助けになります。そのためにも今のうちから十分な備えをしておきましょう!
【取材協力】仙台市立荒町小学校
今回の体験の様子や「災害文化」に関する情報は、仙台市の特設サイトでも公開中。ぜひチェックしてください!
2023年1月中旬、仙台市中心部を歩きながら街中に残る災害の痕跡を探すイベント「せんだい・立直りのコンセキ巡り」が開催されました。
このイベントは、達人と共に“ふらっ”と街を散歩し地域を学ぶ「仙台ふららん」と、「災害文化」の創造・発信を目指す仙台市が主催。仙台の歴史を収集・出版する「風の時編集部」の佐藤正実さんと木村浩二さんがガイドとなり、仙台駅前の「AER」から「芭蕉の辻」までの道のりをさまざまな解説を聞きながら辿りました。
現在の仙台駅・AER周辺は大雨が降ると冠水が発生しやすく、ニュースでも度々取り上げられることが多いですが、実は約400年前に描かれた「奥州仙台城絵図」(所蔵/仙台市博物館)にもその特徴を示す記載が残っていたり、芭蕉の辻に残る龍神は、火事を恐れた昔の人々が火伏の神様である龍を祀ることで大火を防ごうとしたことに由来していたりと、長く仙台に住んでいても「知らなかった!」と驚くような発見がたくさんあるイベントとなりました。
詳しいイベントレポートは仙台市のホームページに掲載されていますので、ぜひ併せてご覧ください。
これまで、machico防災部の記事でも発信してきた「災害文化」というキーワード。2023年3月4日に開催された「仙台防災未来フォーラム2023」の一環として、災害文化について市民と一緒に考えるグループディスカッションが実施され、14名の方が参加しました。
東日本大震災をきっかけに、自分の身の回りで何が生まれ、何がなくなり、何が変わったのかをみんなで議論。震災当時はまだ小学生であまり覚えていないという方や、宮城県内におらず直接震災を体験していない方など、さまざまな立場で震災を経験した方同士が意見交換をしました。被害の大きさや記憶の仕方も人によってさまざまでしたが、「地震で倒れたり落ちたりするものは置かないようになった」「会いたい人には会いたいときに会っておく」など、多くの人が生活の中に変化を感じているようでした。
今回このディスカッションに参加した理由としては、「震災や当時のことを伝える方法を知りたい」「宮城に引っ越してきて、もっと当時のことを知っておくべきだと思った」という声が多く、普段震災について話したり考えたりする機会が少ない分、こういった機会でないと話せないことや言えない想いというものを打ち明ける機会になったようでした。
このように、みんなで災害について考え、話題にすることが、災害を乗り越える術を持った社会文化(=「災害文化」)につながっていくのだと思います。machicoはこれからもみなさんと一緒に災害文化について考えていきます。
「machico防災部」の活動は、せんだいタウン情報machicoが
震災10年目を機にスタートさせた「つながるプロジェクト」の一環です。
3.11のあと、身に付いたことや意識的に変えたことを教えてください。