2021年04月08日
東日本大震災 つながる出会い
渡辺祥子さん×編集長『“希望の言葉”を生きる力に』

【東日本大震災 つながる出会い】渡辺祥子さん×編集長『“希望の言葉”を生きる力に』

東日本大震災の後、復興活動を行う多くの人に出会いました。
起こってしまった災害に、自分はどう向き合い、何ができるのか、戸惑いながらも前を向いて歩き続ける人々の言葉は、復興するまちを支える力強さを感じました。
その取り組みやその後の様子など、10年という年月を経て、今どのようなカタチになっているか、編集長が再び会いに行きました。

 


 

渡辺祥子さんは、地元仙台でフリーアナウンサーとして様々なメディアでご活躍されてきました。その活動の中で、もっとリアルな場で直接語りかけたい、という思いから、朗読の活動も始め、舞台公演や講演活動を全国各地で開催、エッセイの執筆なども手掛けられてきました。
祥子さんとの初めての出会いは震災前に遡りますが、久しぶりにお会いしたのは、東日本大震災から1年7ヶ月後に仙台市で開催された、「日本女性会議2012」でした。
震災で大きなダメージを受けたこのまちの復興のために、女性たちも地域づくりの当事者として共に考え行動する力を持つことの大切さとその決意を、全国から参加される方々と共有し発信する場でした。私もひとつの分科会の作り手として参加したのですが、そこで進行役を務めてくださったのが祥子さんでした。
その後、共通の友人を通じ祥子さんが主催する、「3.11メモリアル企画展」のお知らせがあり、会場へ足を運ぶようになりました。
私は毎年、3月11日は犠牲になられた方々を偲び、被災地に思いを寄せる一日にすると決めており、そのイベントは毎年欠かさず参加させていただく大事な場所になりました。

 

 編集長  祥子さんの活動には、いつも心を動かされるのですが、それだけではない、なにか自然と引き寄せられるように私も参加させていただいていると感じているんです。それはどうしてなのかなといつも思っていたんですよね。
それはきっと、祥子さん自身をつくっている“何か”があると、そのあたりを今日はお話しの中から見つけられたら嬉しいです。

 祥子さん  ありがとうございます。いつも丁寧に活動の情報をみなさんに届けてくださってありがたいです。私はアナウンサー歴30年、朗読の活動を始めて23年になりますが、常に、言葉を通して、相手に生きる力や明日への活力、心の癒しなど、それぞれの中の何かにつながるものを届けたいという想いで活動してきました。
でも震災が起き、その活動すべてができなくなってしまいまったんです。そればかりか、当時体調を崩していて、震災の翌週に手術をする予定だったんですが、それができずに延期になってしまって。親の介護もあり思うように動けませんでした。

 編集長  震災当時、ご自身も大変な思いをされていたんですね。

 祥子さん  被災沿岸地域の知人のサポートにも行けなくて、言葉が何の役に立つんだ、これまで自分は何て驕っていたんだと、自分自身を責め、無力さを嘆いた時期がありました。

 編集長  そこまで深く被災地に思いを寄せられていたんですね。その後、お体は大丈夫だったのでしょうか?

 祥子さん  手術をしたのは、最大余震があった4月7日でした。術後、ベッドで管につながれた状態で、激しい揺れに身を委ねるしかありませんでした。同室の人が次々避難する中で、私ひとりその場で揺られていたんです。地震がおさまった後、ふと、逃げも隠れもできなかった私に、この状況はいったい何を気付けといっているのだろうかと考えました。そして、そうか、私がするべきことは、今までと同じこと、この地から“希望の言葉”を伝えよう、そう思いました。

 

渡辺祥子さん

 

 編集長  ものすごく怖い経験だったんじゃないでしょうか。その中での“気づき”が、祥子さんが震災後活動してこられた想いの原点だったのかもしれないですね。

 祥子さん  そう自分が思ったら、次々被災地から声が届くようになったんです。自分が被災したにもかかわらず、支援者を和ませる被災者の言葉が周囲の人々に力を与えたり、その場に行けなくても私に届く被災地の人々の言葉に、心が熱くなりました。
体調がだいぶ戻ってきた4月末に、遠方でこれまでお世話になった方たち3人にお手紙を書きました。当時河北新報にエッセイを書いていたので、その記事のコピーと、ラジオ3で話したものを録音したCDとともに、「私に話させてください。」と送ったんです。
その中のおひとり、山口県宇部市の女性が「祥子ちゃんが藁にもすがる思いだったってわかった。私が一本の藁になる。」って言ってくれたんです。
ものすごく嬉しかったですね。そして5月23日宇部市で、初めて被災地の心を伝えるお話し会を実施しました。

 

「被災地の心を伝えるお話し会」スタートの地の山口県宇部市の小学校にて(2011年5月23日)

「被災地の心を伝えるお話し会」スタートの地の山口県宇部市の小学校にて
(2011年5月23日)

 

 編集長  震災後、とても早い時期に活動を始められたんですね。

 祥子さん  そうなんです。まだ被災地では大変な状態なのに、外に行って話をするなんて非難されるかもしれないと、少し迷いもありました。でも震災の5年前に出会い感銘を受けた「ロゴセラピー」(※)の考え方が私の想いを後押ししてくれました。
(※ウィーン出身の精神科医 ヴィクトール・E・フランクルが創設した精神療法)
フランクルは、“自分の手では変えることのできない絶望的な状況を体験したにもかかわらず、人間として大切なものを見失わなかった人、尊厳を保ち続けた人の態度”に大きな価値を見出し、それを「英雄的態度」と称えましたが、そういう態度を取り続けた人が被災地にはたくさんいたんです。

 編集長  祥子さんには、「ロゴセラピー」の考え方が根底にあったからこそ、被災地を想う気持ちがより強かったのかもしれませんね。震災の前に出会っていたことにも意味がありそうです。

 祥子さん  「英雄」は、困難な状況下でも“おのれ”を手放さずに生きた人たちです。遠い場所で、被災地のことを想っている人たちに、被災地でこんなに力強く生きている人がいるんだっていうことを語ることで、人と人をつなぐことができるんじゃないかって思いました。

 編集長  どれくらいの場所で、お話しされたんですか?

 祥子さん  2年半くらいで、全国各地100ヶ所近くで語りつぎの活動をしました。

 

被災沿岸地域の中学校6校に、支援者から寄贈された書籍を届けながら講話も行いました。

被災沿岸地域の中学校6校に、支援者から寄贈された書籍を届けながら講話も行いました。
(2012年2月28日気仙沼にて)

 

 編集長  そんなにたくさんの場所で被災地のことをお話しされたんですね。

 祥子さん  その活動から思いもかけない支援が被災地に届いたりもしました。私がなぜ言葉を届けているかというと、被災の地で力強く生きる人たちの言葉から、私自身が力をもらったから。ただただそれが一番の原動力で、こういう人たちの姿を伝えることが絶対誰かの“生きる力”につながるんじゃないか、そう確信しているからなんです。

 編集長  そこまで、祥子さんを強くするのは、被災地に生きる人だから、でしょうか。

 祥子さん  被災地に生きる自分だからこその何か、というのはあります。それと、ロゴセラピストとして、人間は自分を超えて何かに向かう生き物だということを、語らずにはいられなかったのです。
被害の大きかった沿岸地域の人たちは、自然と共に生きている、大地に根差した大きいサイズの時間を生きている感じがします。街の時間はすごく早く、すぐに成果を出さなくてはならない。でも、大地の時間は、春がきて、夏、秋、冬と一年で考える。例えば農家の人は何十年も、何百年も昔からこの大地を耕し、受け継いで生きている。海もそう。大地の時間、海の時間を生きる人たちの大きさや力に魅せられたんですよね。
本来は町場に住む私たちにもそれはあるはず、その情緒を学ばせてほしいとも思いました。

 編集長  海はいつもそばにあって、海が全部持って行ってしまっても、また海と生きる。海は自分と共に生きていく、なくてはならない存在なんでしょうね。
ご自身の体験と、被災地の言葉を伝える宇部市から始まったお話しの会ですが、全国で開催されるに至った経緯はどういうつながりからだったのですか?

 祥子さん  日本を美しくする会・掃除に学ぶ会の活動を20年来お手伝いしていました。全国に仲間のネットワークがあり、最初に手をあげてくださった方も、掃除に学ぶ会の方でした。震災前の社会活動、市民活動でのつながりが、とても大きかったと思います。 そして、全国を回ってみたら、苦しんでいる人がいっぱいいたことを知ったんです。ある講演で、車いすのおばあさんが募金を持ってきて「私はこんな体だから、何もできないの。」といって泣かれたんです。障がいを持ったお子さんをお持ちのお母さんたちはフリーマーケットで集めたお金を募金してくれているのに、「どうしても子どもがいるので、被災地には行けない。」ということを負い目に感じている人も少なくなかったんです。被災地に思いを寄せて届けてくれることがどんなに力になっているか、私はやっぱり伝えなくちゃいけないと思ったんです。
“それでも生きていく人たち”に、私が言葉を通して伝えることの意味は、そこにあると思っています。

 

南米ボリビアのサンフアン日本人移住地にて。高齢者施設と小学校で朗読と共に被災地の様子を語る(2016年5月13日)

南米ボリビアのサンフアン日本人移住地にて。
高齢者施設と小学校で朗読と共に被災地の様子を語る(2016年5月13日)

 

 編集長  その想いが、私が毎年伺わせていただいている、「3.11メモリアル企画展」の開催につながっているんですね。

 祥子さん  そうなんです。震災後3年間書き溜めたエッセイをまとめた『ことづて』という本を自費出版で作ったのですが、それが出版社の方に伝わり、その出版社から『3.11からのことづて 災後を生きる人たちの言葉』というタイトルで出版していただくことができました。その出版記念に長町のびすた~り(現在は移転)で言葉展を行った2014年8月に、「3.11を語りつぐ会」を立ち上げました。つながりとは面白いもので、そこに見に来てくれていた友人からの紹介で、藤崎百貨店にて「3.11メモリアル企画展」を開催することになったんです。最初に開催したのは、2015年3月でした。
自分でもこんな流れで開催することになろうとは思ってもいなかったので驚きました。

 

展示とメッセージコンサートで綴る 3.11メモリアル企画 『10年後のことづて』展 藤崎百貨店にて(2021年3月)

展示とメッセージコンサートで綴る 3.11メモリアル企画 『10年後のことづて』展
藤崎百貨店にて(2021年3月)

 

 編集長  そしてまた、私もそこで祥子さんに再会することになったわけですね。
◆2018年メモリアル企画展『出発の声 「花 海 空 光」』の様子
今年もその会場で、新しい祥子さんの本をお披露目されたと伺いました。どのような想いで書かれた本なのですか?

 

『困難を希望に変える力~3.11 10年後のことづて~』

 

 祥子さん  以前出版したエッセイ集に登場いただいた方や、その後の活動やイベントなど、震災以降ご縁をいただいた方11名に改めてお話しを伺って、根底に流れる生きる力の源を私なりにたどり、フランクルのロゴセラピーをよりどころにしてまとめました。
私が彼らから受け取ったもの、生きる力が、誰かの生きる指針になったらなと思います。

 編集長  勇気をもらえそうな気がします。

 祥子さん  人間は困難な状況に身を置くと、どうせ自分なんて、人生なんて、って思いがちですが、私も生きてみようと思わせてくれる人たちの姿です。

 編集長  それが「英雄」ということでしょうか。

 祥子さん  今回取り上げた、フランクルの言うところの「英雄的態度」とは、自分では変えられない困難な状況の中で、目の前に現れた現実とどう向き合うか、勇気ある、尊厳ある態度をとれるかということなのです。休んでも立ち止まってもいい、でも心が何かに捕われてしまうことがないように生きてほしいと思います。

 編集長  まだ読ませていただいていませんが、もうみんなに絶対読んでほしい、この本からそういう力を感じます。

 祥子さん  ありがとうございます!ぜひ後程ゆっくりご覧ください。

 編集長  最後に、震災から10年を振り返って、今私たちに大切なことはなんでしょう。

 祥子さん  今、コロナウィルスにより、目に見えてつながれない、触れあえないことがたくさんあります。でも思い出してほしいんです。10年前、顔も名前も知ならい誰かの無事を心から願ったときの自分を、それまでの自分を超えて誰かとつながろうとする力を、あれがどれだけ人の支えになったのか、自分自身の力になったのか、思い出して信じてほしいんです。そこにもうひとつの3.11の意味があると思います。

 編集長  つながったこと、それぞれが生きようとしたこと、本当に忘れてはいけない。コロナ禍の今だからこそ、思い出してほしい大事なことですね。
とても深いお話しを、ありがとうございました。

 

ー取材を終えてー

私が見つけたかった“引き寄せられる何か”は、被災地に想いを寄せるときに、人間の尊厳、すなわち、ひとりの存在を尊いものとして尊敬し、互いを思いやる心なのだと、祥子さんのお話しの中から感じました。それはあたたかく寄り添うものです。
『困難を希望に変える力~3.11 10年度のことづて~』は、そのことを人々の姿と言葉で語られています。“あとがたり”の中に「人と人とが関わると言う事は、果てしなく広がる大きな可能性を秘めている」とありました。何のために関わるのかよりも、何かのために関わるという想いと行動は、まさに10年前の東日本大震災の際、無意識のうちに多くの人が行っていたことだと思います。ぜひ「それでも前を向いて歩む人々」の声を受け取ってください

渡辺祥子さん×編集長

 

『困難を希望に変える力~3.11 10年後のことづて~』

『困難を希望に変える力~3.11 10年後のことづて~』

著者:渡辺祥子 発行:3.11を語りつぐ会
 

machicoでは、震災を風化させないこと、経験から学んだことを共有することの大切さを感じていることから、渡辺祥子さんの震災の語りつぎの活動を応援しています。
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◎アナウンサー・朗読家 渡辺祥子(わたなべしょうこ) 公式サイト

 

【「東日本大震災 つながる出会い」バックナンバー】
 工藤真弓さん×編集長『椿の“いのちを守る避難路”』

 

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