老若男女、年齢は関係ない。あなたはこの世界観を、どう受け止める?
88鍵の旋律と、凡百のリリック。音楽ジャンルの壁をぶち破り、退屈な世界を切り拓く。
岩手県花巻市出身。1991年5月8日生まれの25歳。ピアノ弾き語りソロアーティスト、日食(にっしょく)なつこさん。
9歳からピアノを、12歳から作詞作曲をはじめ、近年では『ARABKI ROCK FEST』や『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも出演を果たしています。
テレビ朝日”関ジャム 完全燃SHOW”で紹介された曲「水流のロック」は、yahoo!検索ランキング1位に、そしてランキング圏外からiTunes第3位に!地元岩手花巻市の百貨店”マルカンデパート”への思いをつづった「あのデパート」は泣けるPVとして話題を集め、Youtubeで10万回再生を記録しています。
内にふつふつと沸き立つ思いが、変幻自在なピアノの音色にのって放たれるとき、あなたはその世界観をどんな風に受け止めるでしょうか?
独特の楽曲はどんな風にうまれるのか、はたまたプライベートは??2017/1/11にリリースされた4thミニアルバム、その名も「逆鱗マニア」についてもおうかがいしました。
●4thアルバム「逆鱗マニア」のリードトラック「ログマロープ」は、
半年間のスランプの果てに生まれた曲とのことですが。
ログマロープができる前の半年間は、曲がまったく書けなくて、死ぬほど辛い状態でした。止まっちゃいけない、常に曲をつくるのが最低限の仕事なのに、それすらできていないことが死ぬほど恥ずかしくて。早くやらなきゃやらなきゃって思えば思うほど辛くて、私はすでにすべて出し切ったのかもしれないという思いに至って。それで、私はもう全て出し切ったからこの曲を最後に音楽の仕事を辞めますという曲をつくろうと思って書いたのが、このログマロープなんですよ。そこまで追い詰められていたので、まわりの目も気にせずに書きました。そのことで、これまではまわりの目を気にして、持っていたものが多すぎたんだなと気づけたんです。
ログマロープを書き終えたら、残りの7曲も堰を切ったようにバーっと1ヶ月くらいで全部できて、その行き詰まりは必要なことだったんだって、後になって思いました。
これまでも曲を書けないことは頻繁にありました。19歳の時、22、3歳位の時にもあって、だいたい2、3年に一回ガーンと落ちるタイミングが来るんです。前に進もうとしているのに、今の自分にはまだそこに行く力が足りなくて、理想と現実がぶつかってビターっと止まってしまう。でもそこを抜ける時には、それまでと違う曲が生まれたりするんです。
●「あのデパート」は、2016年6月に閉館した花巻の『マルカン百貨店』を歌った曲。
MVもマルカン百貨店の中で撮られたんですよね?
地元花巻のマルカン百貨店が2016年の6月に閉館してしまうと聞いて、閉館1ヶ月前くらいに電話をかけて、「なくなってしまうのは非常に惜しいので、もしよかったらそこでミュージックビデオ撮らせてもらえませんか?」とお願いをして、撮影させていただいたんです。テレビ局が特番を組んでマルカン百貨店の記録映像を残してくれないかなとも願っていたんですが、待っているよりも自分でやったほうが早いなと思って。
実はこの曲、はじめは全然違う歌詞がのっていたんです。当時はそのまま出すつもりだったのですが、マルカン百貨店のための曲なんだから、マルカン百貨店のための歌詞を突き詰めた方がいいんじゃないかと思って、歌詞を一回まっさらにして書き直しました。
MVの中には、キャンドルがたくさん灯っている食堂のシーンも出てくるのですが、かねてから一緒にお仕事をしたいと思っていた盛岡でキャンドルのお仕事をされている方をお呼びして、いろいろご協力いただいて完成させることができました。舞台も曲も歌声も地元産。100%岩手産のミュージックビデオになっています。
●新しいミニアルバム『逆鱗マニア』の聴きどころと魅力をおしえてください。
いちばん大きいのは、日食なつこがはじめてアレンジまで手がけたところです。そこにも注目して楽しんでいただけたらうれしいなと思います。
自分にアレンジのスキルがないのを言い訳に、前作まではアレンジャーさんにおまかせしていたのですが、それではいつまでもできるようにならないし、スキルがなくてもいいから今回はやろうと思い立って実行しました。その気持ちの変化は大きかったです。
セルフプロデュースは、はじめはわからないことだらけでした。私はピアノ専門ですから、その他の楽器のことは全然わからないので、スタジオに入ってじーっと他の楽器を観察しながら知っていきました。
他の楽器への向き合い方、どういう風に進めていけばうまくいくかが、今作でなんとなくつかめてきたので、次の作品はさらに研ぎ澄まされたものがつくれるでのはないかと思います。
●新しいことに挑戦してみてどうでした?
ピンチだと感じたことはありました。ただやらなきゃよかったと思ったことはないです。逆にもっとやればよかったと思います。遠慮はだいぶ減りましたが、それでも曲作りで相手に一歩遠慮してしまうこともあって、やっぱり攻めきらないと第一線には躍り出ていけないので、そこは次の作品の課題だと思っています。
今回の作品は、吹奏楽もやっているブラスバンドの方から、ロックのドラマー、クラシック出身のパーカッショニストの方など、ほんとにいろんなジャンルの方をお呼びしてつくり上げたので、そういう意味でもキャラの濃い8曲になったと思います。
これまでの活動では、人と一緒にというよりは自分で自分の音楽を、ピアノを、とにかく突き詰めることが多かったのですが、その段階はこの作品で完了したと感じているので、ここからは自分の形作ったスキルをもとに、まわりのミュージシャンとつながり深く広くしていく作業がはじまるのかなと思いますね。
●独特な楽曲のインスピレーションの源は、どんなところにあるんですか?
言葉のセンスはどうやって磨いているの?
基本的には日常的に刺激を受けたことを元に歌詞や曲をつくります。本はそんなに読む方じゃないのですが、言葉とか語彙を集める作業は、なんとなく昔からやっていました。小学校の時に、難しい単語を知っていたらかっこいいだろうなと、国語辞書を読書することをはじめて、画数の多い漢字にマーカーを引いたりしていたら、自然と語彙力がついてきたみたいです。
中学校では授業中に、英語辞典で調べなきゃならない単語の隣にものすごくおもしろそうな単語をみつけるとそこにぴっと線を引いたり。そんなことを授業中ずっとやっているような生徒でした。話している人の言葉やTVでも気になる単語があると調べたりノートのはじにメモしたり。自然にそういう言葉を集める習慣はありましたね。
●どんなアーティストに影響を受けましたか?
一番最初にはまったのはEXILE。小学生の時で、清木場俊介さんが在籍していたいちばん最初の6人時代が好きでした。EXILEの曲をピアノで弾こうとすると、ジャズで使うようなセブンスコードが入っていたりしておしゃれなんですよ。その分難しいのですが、それをなんとかピアノで弾きたい、いつかEXILEと共演したい!なんて小学生さながらの願望も持っていて、EXILEの曲の耳コピをしていました。最終的には楽譜を買って、コードがわからないからピアノコードの本を買って、結果それが音楽の世界への入口になりました。今思えばそれがなかったら、ここまで音楽に情熱をかけてないだろうなと思いますね。おかげで、楽譜にすべて音符が書いてあるクラシックの世界出身でも、コードしかなくあとは耳コピで完成させていくバンドの世界でもやっていける、強いピアニストになれたなとも思います。
●プライベートはどんな感じですか?ストレス解消法は?
最近休みという概念がなくなってきていて、予定がない日は曲を書くか曲を聴くかしていますね。実質何かをやり続けているので、休みという気持ちにならないというか。ごはんをつくっていても、最近買った曲を横でずっと流していたり、一時期は寝るときもずっと英語圏のラジオを流し続けていました。寝ている間にも新しい情報が入ってこないかな、目が覚めたら凄いアーティストになってないかなと思って(笑)。
「水流のロック」という曲を出した時から3年くらいずっと共演しているドラマーのkomakiさんは、ライブとライブの間の空き日に、「ごはんいきませんか」と誘うと、「あ、ごめん俺スタジオとっちゃった」って。ミュージシャンは楽しそうな仕事でいいねと言わますが、みんなまじめでストイックなんですよ。休むことを自分自身がゆるさない。そういう人がすごく多いので、それに比べたら私はまだぬるい方だなと思ってしまいます。
ストレス解消方法は自炊です。すごく大量の料理をつくるとき、たとえば大根まるまる1本を千切りにし続けると結構ストレス解消になります。家にあるもので料理することが多いですね。最近はタイ料理を食べに行くことにはまっています。トムヤムクン、ガパオ、ちょっと酸味のあるあの味付けがすごく好きで、パクチーも大好きです。パワーの源は食ですね。私は食と音楽でできていると思います。すごく単純なつくりです。
●今後の展望や野望をおしえてください。
息を長く続けていきたいと思っています。60歳まではこの仕事で食べていけるようになりたいというのが最近の人生計画です。私の音楽は大衆に自信を持って投げられるかと言われたら、決してそうではない、ちょっと特殊な部分があると思うので、むしろそのことを大事にしていきたいです。
それからフェスにはたくさん出たい。『ARABAKI ROCK FEST』でも、いつか大きいステージに立ちたいです。外で大勢の前で歌うのは本当に気持ちがいいので、自分も楽しめる場、私を知ってもらう機会をたくさんつくりたいなと思います。
●読者の方にメッセージをお願いします。
仙台には18、19歳のころからライブに来ているので、その頃からのお客さんもたくさんいる街。いつも応援ありがとうございます。
仙台に来るたびに牛タン、萩の月、いろいろおいしいものを味わってきましたが、最近は半田屋がメインです。「よしきょうは仙台でライブするぞ!がっつり食べなきゃ!」と思ったら半田屋に行きます。ハムエッグ大好き、焼き魚、めし中、トン汁、納豆・・・いつもおいしいごはんをありがとうございます。
仙台は最近けっこうライブに戻って来られるようになったので、これを機にどんどん活動を広げていきますので、ついてきてください。よろしくお願いします。
●最後に、日食なつこさんにとって“音楽”とは?直筆で書いていただきました。
繰り出されるひりひり痛くて感情むき出しの強い楽曲やアーティスト写真のイメージから、とてもクールで芯の強い女性を想像していましたが、お会いしてみると言葉が豊かでユーモアがあって、音楽にまっすぐ健気な女性という印象を受けました。
強い信念で、自分のめざしたい場所で向かって突き進む姿は本当に強く儚い流星のイメージ。一方残り物料理が得意という、“いい女”な一面も。そのギャップも人を引き付ける所以なのかもしれません。
彼女の感性がつまった「逆鱗マニア」ぜひぜひ、あなたもご堪能あれ。
2017/1/11リリース
4th ミニアルバム「逆鱗マニア」
価格2,000円(税抜)
【収録曲】全8曲
あなたが日常生活の中で歌や曲にしたいなと思うテーマをおしえて!