2017年08月09日
曖昧の美、忘れられた挟間。 日本語だからこそたどり着ける場所。ラッパー環 ROYさんインタビュー
machico的・気になるパーソン
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 前作『ラッキー』(2013)リリース後、ソロ活動をはじめ、U-zhaanや鎮座DOPENESSとの楽曲発表、蓮沼執太フィルへの加入や、美術館・劇場・ギャラリーでのパフォーマンスにインスタレーション、『アズミ・ハルコは行方不明』映画音楽の制作、YUKIやサカナクションの作品への客演、日清食品『SAMURAI NOODLE』広告音楽の制作、NHK教育『デザインあ』コーナー音楽の制作など、様々な活動を行ってきたアーティスト環ROYさん。4年ぶりに発表したのがフルアルバム『なぎ』です。
 スキルフルなラップはもとより、新旧ジャパニーズ・カルチャー/コンテンポラリー・ポップ/エレクトロニカ/格式を探求した日本語表現/などのキーワードを散りばめながら絶妙なバランスを持つラップ・ミュージック・アルバム。そんな作品を手がけるのは、一体どのような人物なのでしょうか。お話をうかがいました。

 

 

●4年ぶりの新作『なぎ』とはどのような作品ですか?

 「アメリカから輸入したラップを、日本語でどう行うのか」ということを、改めて自分なりに考えて作った作品です。歴史を振り返ると、日本は中国から漢字を輸入し、そこから平仮名やカタカナを生み出しました。そのような感じで、僕たちは、ラップ音楽を輸入して、日本人なりに咀嚼し、アメリカのラップとは違う、日本的な、ラップのようななにかを近い未来に生み出すと思うんです。その途中がいま現在だと思って取り組んでいます。
 20歳から音楽活動をはじめて、初のソロルバムを発表したのが24歳の時。その頃はまだ若くて、そのようなことはあまり意識できていませんでした。ラップで表現するということを十数年続けてきた過程で少しずつ、今話したようなことが自分の仕事なのかなと思うようになりました。


「はらり」PV

 

 

作品づくりにとって重要な日本語と、環さんはどのように向き合っているんですか?

 十数年ラップをやってきましたが、ラップではなくとも、言葉を書いて口から発するという表現方法をこれからも長く続けていきたいと思っています。続けていくためには、いろいろな角度から、母語である日本語と向き合わなくてはいけない気持ちになります。たとえば、今回の歌詞の中には古今和歌集からの引用が二首あるのですが、「自分は日本人なのにどうして好きな和歌がないんだろう」と疑問に思ったことが引用のきっかけになりました。自分は日本人だし、和歌は日本語だし、昔から残っている表現手法として、好きな和歌を見つけてみてもいいんじゃないかなと思ったんです。そして、和歌の世界も現代の日本文学もポップミュージックの歌詞も、本当は一続きに繋がっているはずなのに別物のようにかけ離れて感じるのはなぜだろうと思うようになりました。そんなふうに、過去の物、例えばバッハとビートルズとゆずは音楽の歴史でいうと繋がっているはずなのに、なぜか断絶しているように聴こえる、その挟間について考えることも大切にしていました。


「フルコトブミ」PV

 

 

今回の作品には、どのような思いが込められているのでしょうか?

 現代って、物事を定義づけして、すべてにラベルを貼っていくような、なんでもかんでもカテゴライズしようとする圧力が強いように思うんです。でも、すべてをそんな風に整理しようとすると、みんながスピーディに理解しやすくなる反面、スピーディーに理解できないものは排除されて、多様性が失われていくと感じるんです。それって生きづらい気がするんだよね、という感覚は、僕自身が常日頃から感じていることなので反映されていると思います。。
 なぜ人はそんなふうに物事を細分化して合理化したがるかと突き詰めて考えていくと、死を遠ざけるためという考えにたどり着きます。人類は生まれてから現代に至るまでに科学を進歩させて、あらゆる事象を合理化してきました。たとえば自動車は、疲れないように人や物を運びますよね。疲れると病気になって死にやすくなります。洗濯機もそうです。衣類が汚いと病気になりやすくなるので、いつでも綺麗な服を着るために発達した。そうやって便利にすることは死の恐怖から遠ざかることだと言えると思います。でもその反面、いろいろな物事が細分化されすぎてしまって、個人個人が物事をひとつの大きな流れとして捉えることができなくなってきているように思うんです。
 例えば、食卓の牛肉。これだって育てる人、捌く人、運ぶ人、調理する人がいます。でもそれぞれの役割が細分化されているから、自分が該当しないパートのことはよく知らないのが普通ですよね。ファーストフードの店員はそのハンバーグがどんなふうにそこへ来たのか知らないと思うんです。だから命をいただく、ということも言葉では理解できているけれど感覚としての理解はかなり浅いような気がします。昔は動物を狩ったり、家畜化したりして、それらを捌いて食べる一連のプロセスを、だれもが実感としてわかっていたと思うんです。死も近いけれどそのぶん生も近かったように思います。現代では他の領域への理解が浅いぶん、失われてしまっている感覚があるのだと思います。
 そもそも普段こんな内容は話題にのぼらないと思います。自分がいる枠組みの外のことをあまり知らなくても生きていけるんですよね。それが便利ということだと思います。でも、時にはこういったことを会話してみてもいいと思うんです。自分の居る枠の外の物事にも自覚的な方が、生きている実感みたいなぼんやりとした問いを忘れさせない気がします。こういうとりとめのないことを考える時間が、今回の作品作りでは多かったですね。細分化され合理化されてきたことで、見えなくなっている挟間みたいなものを大切にしたいと思っています。生きている動物と食肉の狭間、ショパンとJ-POPの狭間、喋りとラップの狭間、いろいろな狭間ってあるじゃないですか。そして、世の中は、いろいろな物事が絡まり合い関係しあって成立していくから、一筋縄ではいかないことが多いじゃないですか。そういうアルバムになればいいなと望んでいます。


「On&On」PV

 

 

 

日本語の魅力はなんだと思いますか?

 あいまいなニュアンスでコミュニケーションできるところだと思います。「察する」が日本語の特徴の一つだと思います。

 

 

そもそもラップをはじめたきっかけはなんですか?

 中学校3年生くらいのころ、ラジオから流れてきたラップを聞いて、すごく好きだと直感的に感じました。そこから10年くらいは、ラップ音楽ばかりを聞いていました。20歳頃から自分でも表現してみようと音楽活動を始めました。

 

 

インスピレーションはどういう風に生まれるんですか?

 先ほども話しましたが、和歌と現代の言語表現とか、クラシック音楽とポピュラーミュージックとか、馬車とF1カーとか、本当はつながっているはずのものが別物に思えたり、断絶しているように感じるのはなぜだろうとか、そういった生活の中で生まれる疑問を掘り下げて考え、調べたり学んだりするなかで生まれます。 

 

 

インスタレーション作品に取り組まれた経緯は?

 作品を公募できる機会があったときに、僕は普段はミュージシャンとして音楽をつくり、CDをつくり、ライブはやっていたので、なにか別のことで音楽を追求してみたいなと思って考えた活動のひとつがインスタレーション作品でした。
 『Types』という作品は、マジックミラー状のアクリル板で仕切られた空間の中に自身を展示して、内部にいる僕からは外の世界が見えない状況を作りました。パフォーマンスとただの動きの挟間とか、パブリックとプライベートの挟間とか、そういう観念の挟間がどこにあるのかを考えるきっかけになりました。


『Types』movie

 

 

仙台ご出身ですが、宮城県にはどんなイメージを持っていますか?

 高校を卒業してすぐ宮城を出てしまったので、あまりイメージがないんです。文脈を持たない、ある日開発されて出現した新興住宅地で育ったことも関係していると思います。宮城県を含め、東北地方をあまり掘り下げてこなかったのでこれからはもっと掘り下げて、学んだり知っていきたいと思っています。そうすることで自分の作品にも影響があると思いますし、必要なことのような気がします。

 

 

仙台市営地下鉄東西線プロモーションに参加されてどうでしたか?

 仙台市営地下鉄東西線開業を周知し盛り上げるために、モバイル用のアプリケーションをつくるというプロモーションだったのですが、高校の時の同級生からSNSを通じて音楽でそのプロモーションに参加してもらえないかという打診をもらい参加することになりました。
 そして制作した曲を、工事途中の地下鉄東西線で演奏しました。それを記録した映像もサイトで公開されています。そういった行為はなかなかできないことですし、とても貴重な経験をさせてもらえてありがたいなと思いました。


“TOZAI-SEN APPLICATION” Trailer

 

 

今後の展望を教えてください。

 音楽とか演劇のような時間芸術と、絵画や建築のような空間芸術の狭間に興味があります。考えを掘り下げて、ラップや言葉や発声などで、その狭間のような何か作品ができればいいなと思っています。インスタレーションは時間芸術と空間芸術の境界があいまいなところがおもしろいと思います。
 それから、最初にも話しましたが、かつて日本人が漢字を輸入して自分たちが使いやすくするために平仮名、カタカナに変化させてきたことで日本語が発展してきたように、ラップを自分たちの言葉にあうカタチに翻訳なり、咀嚼なりして、僕たちの国独自の表現をつくり出していけたらいいなと思います。


「Offer」PV

 

 

読者の方にメッセージをお願いします。

 ラップと聞いて想像するものとは違うもの、いろいろなラップがあるんだと思ってもらえるものをつくっているつもりです。ミュージックビデオもぜひ見てみてください。

 

 

●最後に、環ROYさんにとって“音楽”とは?直筆で書いていただきました。

 

 

 

 脳みその普段使わない部分を使って、会話をしたように思います。
 環さんも言っていた通り、普段は話さないような話題、自分の領域外にも目を向けて、話してみること、考えてみること。言われてみればそういった領域外の物事の方が、なんと膨大なことか。そして日常生活の中でふと湧き出る疑問も突き詰めていくと、すべて創作の源になる可能性があるとしたら。ちょっと退屈に感じていた平坦な毎日も、全くちがって見えそうな気がしてきました。
 作品への思いを受け止めた後、答えあわせのように『なぎ』を聞くのもまた一興。
 さあ、あなたはこの作品をどんな風に受け止めますか?

 

 

CD情報

環 ROY『なぎ』
DDCB-13035 / 2017.6.21 On Sale / 2,600+Tax
Released by B.J.L.X AWDR/LR2

01.あらすじ
02.Offer
03.食パン
04.はらり
05.On&On
06.都会の一枚の本
07.ことの次第
08.exchange//everything
09.ゆめのあと
10.フルコトブミ
11.めでたい

 

ライブ情報

環ROY なぎ ワンマンツアー2017
8月19日(土)OPEN/START 19:00/19:30 @せんだいメディアテーク 1階オープンスクエア

 

環ROY公式サイトはこちら

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