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2017年05月24日
1987年のインスト作品を再構築。 シンガーソングライター角松敏生さんインタビュー
machico的気になるパーソン

 

親世代と子ども世代が、共有できる音楽を。
過去の作品の再構築は、若く青かった自分への”落とし前”。

 1981年のデビュー以来、心地よいサウンドで多くの人々の共感を呼び、時代や世代を越えて支持されるシンガー。また、今だスタンダードナンバーとして歌い継がれる杏里や中山美穂の楽曲を生み出してきた名プロデューサー。長野オリンピックの閉会式で披露され、V6がカバーしたことでも有名な「WAになっておどろう」も、その手腕が発揮された作品のひとつです。
 シンガーソングライター、そして音楽プロデューサーとしての活動と共に、ギタリストとしての評価も高い角松敏生さん。1987年にリリースした初のインストゥルメンタルアルバム『SEA IS A LADY』を現在のテクニックで再録し、過去作品のリメイクを挟み込んで再構築した『SEA IS A LADY 2017』を2017年5月10日に発表されました。
 最新作品について、音楽活動について、いろいろ聞かせていただくうちに、デビュー40周年へと突き進みながら、長い間多くの人を惹きつけ続ける特別な魅力が見えてきました。

 

 

 

●新作『SEA IS A LADY 2017』の魅力と聞きどころとは。

 30年くらい前の作品をすべて新しく録音し、新たに組みなおした作品です。今40代50代の方々が青春時代に聞いてくれていた楽曲を詰め込んだので、その時代の方々はすごく盛り上がってくれると思います。1987年ごろ僕は歌を中心に音楽活動をしていたのですが、歌を歌う人がギターだけのアルバムを出すというのは、めずらしかったと思いますね。
 大概リメイクはオリジナルを越えられない、とよく言われますが、それはなぜかというと、思い出のスパイスを越えられないからなんです。当時その音楽を聞いていた時に誰と恋をしていたとか、思い出の情景と一緒にその曲を好きになっている。だから当時の曲を好きな方は、それを変えて表現されるよりも、元のままの方がいいと思うんです。でもそれでは今度は僕が納得できない。僕が本当にやりたかったのはそれじゃないから。だから思い出のスパイスを越えるものをつくるつもりで、リメイクを手がけています。
 僕は心底音楽をやりたくてこの世界に入ったわけではないので客観的なのかもしれませんが、だめだった過去の自分に自分で落とし前をつけてやりなおすというのは、すごく意味のある作業じゃないかなと思うんですよ。そして過去にその曲を聞いていた人たちにも「今の方がやっぱりいいですね」って言ってもらう。みなさんの過去の思い出のスパイスを越えることは、オリジナルアルバムをつくって納得させるよりもむずかしいことかもしれません。

 

 

 

●デビュー当時や、『SEA IS A LADY』を発表された1987年当時を、今振り返るとどうですか?

 若いころ、デビュー前は、プロになるために必死でがんばっていたというよりは、ただ好きで音楽をやっていました。当時からプロというのはすごくハードルの高いものだと思っていました。僕は音楽の聞き手としてのプライドがすごく高かったんですよ。誰よりも音楽のこと知っているんだと思っていましたから。だから自分がプレイヤーとしてまだまだだということもよくわかっていたんです。でも好きだからやり続けていたら、デビューの話をいただいて。もちろんうれしかったですが、ちゃんとスタジオでレコーディングをして自分の声を客観的に聞くのは、はじめすごく嫌だったですね。上手じゃないな、って。だからデビューしてから厳しい試練がありました。自分に試練をかしていたというか。いろいろ試行錯誤して、自分の歌に自信を持てたのはデビューから1年後くらいですね。でも自分が自信を持つ前に曲は売れてしまって、周りの評価はあっても自分自身は納得していなかったという状況が実際にはありました。だから当時は、音楽的にいろいろなことにチャレンジしてもがいていましたね。もがいて試行錯誤していたことによって、まわりには新しいことにどんどんトライする人間として認識されていって、それが今のスタイルに至る要因にはなりました。
 その流れの中で、ギターだけのアルバムを出すという挑戦もしたんです。僕はギターが好きだったからやってみたいという思いもあったし、こんな作品をつくったらおもしろがられるだろうなという思いもあって。当時はギターにもそこまで自信があったわけではないんですが、若いころのがむしゃらなエネルギーだけで動いていましたね。
 20代の若いころは、輝いて見えるけれどいちばん人間としてつまらなかったと思う。無駄なことばかりやっていたんですよ。でもそれが若者の魅力であり、無駄なことをやることが仕事なんですよね。その中で無駄なものと必要なものを理解していく。50代になった今20代を振り返ると、あの頃に戻りたいとは思わないですね。やっぱり今がいちばんいいなと思う。いろんなことを知っているし、自分のいろんな本質が見えるようになったので。だから過去の楽曲を今のスキルでやりなおせることはそごく魅力がありますね。

 

 

●なぜ今、インストゥルメンタル作品なんでしょうか?

 今はCDが全然売れない時代。そんな中インスト作品をつくるというのは、トライアルなことだと思います。でも好きな人は好きだし、そんな作品を出す人も少ないし、こういう作品を待ってましたと言う人もいる。それからやっぱり重要なのが、本当にうまい人が演奏しないと、パッとすんなり聞ける上質のインストには仕上がらないんです。
 今はコンピューターでなんでもできる世の中なので、写真もデザインも音楽も、素人とプロの差があまりないように感じます。でも人の目の前で楽器をしっかりひいて納得させるテクニックは、機械ではできませんよね。
 いま若い人たちにも、僕のこのような作品は新鮮に映るみたいで、すごいすごいと言ってくれるんです。今の若いミュージシャンは個人芸のイメージがありますが、僕たちの時代は各楽器の専門家、スタジオミュージシャンが集まってアンサンブルができた。職人芸だったんです。ただ今はそういう職人芸は必要とされないんですよ。いいものをつくればつくるほど損しますから。でもやっぱり若人たちの中にも、ちゃんと演奏することの楽しさや大切さを知っている人たちもたくさんいるので、それが全体に波及しなくてもいいから、そのジャンルとして成立して認められていくといいなと思います。
 僕は50代ですが、僕が子どもの頃、親が聴く音楽は軍歌とか演歌が多くて退屈でした。でもいまは親が聴いている音楽と子どもが聴いている音楽、けっこう同じなんですよ。共有できる音楽がいろいろあると思う。僕の音楽も共有できるタイプの音楽だから、そういう部分も伸ばしていきたいなと思いますね。そういう意味でもインストは新鮮かなと思って今回はチャレンジしました。

 

 

●過去の曲を聞いていて、過去の自分やるなと思うこともありますか??

 曲を分解して聞き直してリアレンジする作業をするときに、原曲を聞いていると、変なことやってるなと思うんですよ。でもこれはたぶん若いからこそできたんだろうなって。たとえばコード進行でも、今はこんなこと絶対しないなというような。今はいろいろ知っているからこそ、そんな風にはならない。若いころはほとばしっているから、理論的におかしことをやっているんです。音が違っていたり。でもそれが魅力だったりすることもあるんですよね。それがすごくおもしろくて。やりたくてしょうがない、やりたくてなんとか形にしたい、かっこいいものをつくりたいっていう思いでできあがっている。リアレンジは、そんな過去の自分に問いかけるような作業ですね。
 僕らの時代は大人がかっこいいというのが基本だったんですよ。だから早く大人になりたかった。早く年を取りたかったんです。スキルを持つことに対しての憧れはやっぱり強かったので、早く大人になって早くこういうことがやりたいっていう欲望がすごく大きくて、そのような頃の作品を聞きなおしてみると、あ、背伸びしてるなって思います。その背伸び感がまたいいんですけどね。そういう再発見はありますよね。

 

 

●若年層にまずおすすめの曲はありますか?

 このアルバムでひとつの物語を形づくっているので、1曲だけ抽出することはできないです。全部聞いてください。通して聞いてどんな風に感じるかを大切にしてほしいですね。
 ひとつだけ特筆するとすれば、1曲15分くらいある「OSHI-TAO-SHITAI」という楽曲が最後に入っているのですが、ジャズプログレッションで、ずっとソロの応酬をしている曲なんです。そういうタイプの曲は、最近の子たちは退屈するか聞き込むかどっちかですよね。この曲、もともとは7分くらいだったのですが、ライブで演奏していたら各ミュージシャンのアドリブパートのソロ回しがどんどん長くなっていって、よりジャズっぽくなっていったので、ファンの間でもそういうスタイルで認識されている曲なんです。だから7分バージョンだと逆にファンは物足りないかなと。それから、本番は15分1発録りなのでライブ感がある。そんなことは技術がある人じゃないとできないですよね。でも15分もあるので、いちばん最後にお好きな人だけどうぞ聞いてくださいと、おすすめしておきます。
 インストは歌詞がないので自由な聞き方ができる魅力があります。気分をあげたいときに聞くとか、そういう風に単純に聞いてほしいなと思います。夏向きにつくっているので、季節感と共に高揚する気分を味わうお手伝いができればうれしいですね。

 

 

●楽曲のインスピレーションの源は?

 なんだろう、あまり考えたことがないですね。一生懸命生きているうちに、曲が生まれていたというのもあるし、これだけ長い年月やってきているから忘れましたね(笑)。たとえばこれは自分が恋をしていたときにつくったものだな、という記憶のある作品もありますが。僕は曲をつくらなきゃならなくて追われてつくるタイプでした。この30何年間のうちに何作かは、うわーっと泉のように湧き出てつくった曲もありますが、ほとんどは必要に迫られて夏休みの宿題やるみたいにつくっていました。そのときにどういう風にインスピレーションをしぼりだすかというと、自分の中の引き出しを開けてみて、あ、これいけるかも、というような感じ。よくお風呂入っていたら浮かんだというような話を聞きますが、そういうのは一切ないですね。風呂入っているときは風呂を楽しみたいし、ベッドに入ったら早く寝たいし、移動中は居眠りしている。
 たぶんですが音楽をつくっているとき以外は、意識的ではありませんが、いろいろなことを取材しているのだと思います。たとえば曲をつくっているときにふと、おととい新宿の地下道を歩いていた時にすれ違った女の人の後姿を思い出したり、道にしゃがみこんでいるやつがいたなとか。そういう無意識にインプットされている情報が、インスピレーションに繋がっていくということはありますね。意識的に取材しようとはしていないんですが、ただふっとあいた時間は大事にしています。だから僕ガラケーなんです。スマホを見ずに街中を見ているとおもしろいですよ。人を見たり、聞こえてくる会話に耳をすませたり。
 僕はもう長年音楽をやってきているので、今は外の音楽は聞かなくても、自分の中から生まれてくるものだけに興味を持って、曲作りをすればいいと思っているんです。たぶん自分が生きてきたいろいろな証やエッセンスがにじみ出てくるだろうと思うので。ここのところは過去の落とし前作業が多いですが、オリジナルのアルバムもそろそろつくりませんか?と声をかけてもらっています。

 

 

●2016年で35周年、長く音楽活動を続けて来られた理由は?

 好きこそものの上手なれではないですが、音楽が好きであるということは重要なポイントだと思います。それから何よりファンができることによって生まれる責任感みたいなものはありますよね。
 ある人が「天才なんていねえんだよ、みんな努力してんだ」と言うのを聞いたことがあるんですが、僕は天才はいると思うんです。天才は努力しているという意識がないだけなんですよ。そして本当の天才はマイペースだから、まわりをうらやまない。僕は努力派だし、人を羨んでいたから天才じゃないです。ああなりたいこうなりたいと、他の人との差みたいなものを常に認識しながら生きてきたので。
 でもやっぱり音楽が好きだから続けて来られたんだと思います。好きじゃないとできませんよ、どんな仕事でも。好きとできるはちがいますけれど、できるようになるにはまず好きにならないと。好きは入口ですから。
 今後の展望としては、ファンのみなさん、僕のブランドを信じてついてきてくれるみなさんを大切にしたいと思います。僕のライブチケットは1万円ちかくするんですが、納得して買ってライブに足を運び続けてもらえるように、つねに学びながらブランドイメージを守っていきたいですし、信用されるものをつくっていきたいと思います。そういう活動を、できるだけ長い間続けていきたいです。

 

 

●仙台の好きな場所、よくいく場所はありますか?

 仙台という街の魅力は、コンパクトなところに欲しいものが全部あって、質も高いところだと思います。もちろんちょっと外へ出れば自然もあるし温泉も近い。魅力がすごくたくさんありますよね。
 仙台はおいしいものがいっぱいあると聞いているんですが、僕は庶民的なお店が好きですね。『さふらん』という洋食屋さんはおいしいですよ。それからNHKのむかいにある『ふじや』というお団子屋さん。そこのラーメンとカレーがうまいんです。だんごもうまいんだけど。ラーメンはさっぱりとした醤油味の細麺で、カレーライスは懐かしい銀の食器に盛られて出てくるんですよ。これがまた泣かせるんだ。仙台に来たら絶対に行きますね。日本人におけるラーメンて、そもそもこんな味わいだったような気がするなと思うんです。そういうのがちゃんとあるんですよ仙台って。食のバランスもすごくいい場所だと思います。

 

 

●読者のみなさんにメッセージをお願いします。

 ライブをやるので、仙台にもまた来ます。30年前の『SEA IS A LADY』のライブはけっこうにぎにぎしくやりましたから、その当時のことをご存知方もぜひ楽しみに来ていただきたいし、若い方々も生演奏の妙をがっつり感じられるライブなのでぜひ。インストに特化したライブはめったにやらないので、すごく貴重なライブになるはずですよ。楽しめると思います。

 

 

●最後に、角松俊生さんにとって“音楽”とは?直筆で書いていただきました。

 

 

 アーティストという華やかなオーラを放ちながらも、“本物”の音楽を追求し続ける、まさに音楽の職人である方なのだなと感じました。2016年に35周年をむかえ、なお精力的に音楽活動を続け、ファンの方々を巻き込んで角松ブランドを進化させていく。さまざまな活動にトライし、新鮮な表現を生み出し続けるそのアグレッシブさは、きっとデビュー当時から変わらないのではないでしょうか。ただがむしゃらではなく、大人の余裕とテクニックが加わったのですから、今の方がきっと最強。だから飽きさせない、だからつい引き寄せられてしまう。常に今がいちばんいいと、ファンのみなさんが納得するのもうなづけます。この夏は、あなたもぜひこの一枚と過ごしてみては?

 

 

角松敏生/SEA IS A LADY 2017

【収録曲】
01. WAY TO THE SHORE
02. SEA LINE
03. NIGHT SIGHT OF PORT ISLAND
04. SUNSET OF MICRO BEACH
05. Ryoko !!
06. Summer Babe
07. 52ND STREET
08. MIDSUMMER DRIVIN’
09. LOVIN’ YOU
10. Evening Skyline
11. OSHI-TAO-SHITAI

 

[初回仕様限定盤]
◆Blu-ray付
01. SEA LINE /  02. MIDSUMMER DRIVIN’ / 03. OSHI-TAO-SHITAI
BVCL-788/789  価格:3,600円(税抜)/ 3,888円(税込)

[通常盤]
BVCL-790  価格:3,000(税抜)/ 3,240円(税込)
※初回盤/通常盤共通:セルフライナーノーツ付

 

 

ライブ情報

TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017
“SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3
SEA IS A LADY
6/4(日)東京エレクトロンホール宮城17:00/17:30 GIP 022-222-9999

 

 

角松敏生さん公式サイトはこちら

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【応募締切】2017年6月20日(火)
【当選発表】メール送信をもって発表とかえさせていただきます。

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