できるだけ楽しんで続けていきたい。
なんの作為もなく、本当にフラットに、ただただそう思う。
ブルースやソウルに耽溺していた早熟なボーカリストと、ビートルズやニール・ヤング、XTCに影響を受けたプレイヤーが大阪で出会い、GRAPEVINE(グレイプバイン)は結成されました。
自主制作したカセットテープで注目を浴び、1997年にミニ・アルバム『覚醒』で彼らは鮮烈なデビューを果たします。
あれから20年。その年月を追い越すような瑞々しさで、しかし不屈の意志を込めた「Arma」完成。
物語はまだ終わりじゃない-
ボーカルの田中和将さん。物静かで雰囲気のある佇まい、落ち着いた口調で、けして短くはない20年という月日を、世にも軽々と淡々と語ってくださいました。
*Arma=武器
●今年デビュー20周年ということで、最新作の聞き所と、曲に込めた思いをおしえてください。
あんまり大々的に20周年記念シングルですとは言いたくはないんですけれども、20周年というタイミングに出るシングルですから、それにふさわしいようなどっしりとした、わりと男らしい、いさぎのいい楽曲ができたのではないかなと思っています。
こんなに本格的なホーンセクションをいれるのは初めてだったので、そこは新鮮に聞こえるんじゃないかな。20周年を祝うちょっと景気のいい感じの曲になりましたね。
●20年と言うのはどのような年月でしたか?
20年もやるとは思ってなかったものですから、ましてや同じバンドをね。やっているうちにあれよあれよという感じですかね。さすがにね20年やろう!って言ってはじめるバンドも少ないと思います。普通はどこまでやると決めてやるものではないですから。特別大きな目標を持っていたわけでもなく、あれよあれよと。
●活動を長く続けて来られた原動力とは?
大前提として、音楽だったり、演奏したりということが好きだからということはあるんですが、幸いいろんな人との関わりの中で、モチベーションが途切れることがなかったですね。いつもそれなりに楽しめてきたんじゃないかなと思います。もちろん壁にもぶつかるし、そりゃあめんどくさいこともいっぱいありますけど、それも含めて楽しんで来られているのかなという気がしますね。
あんまりリーダーと言うか、俺が俺がな人がいなかったんですね。曲もみんなでつくりますし。みんなあんまり自己主張しないというか、熱くなり過ぎないというか、冷静に判断したがるメンバーが集まっていて。もちろん性格は全員違うんですが、テンションはたぶん似ていると思います。今から思えば、それが続いた原因のひとつなのかなという気がしますね。
●長い活動の中で、バンドにとって、また田中さんにとって、大きい変化はありましたか?
音楽的にはもちろん徐々に変化していると思います。結成当初のメンバーが1人脱退したことが、バンド的にはいちばん大きな変化だったと思います。そこから新たに2人のサポートメンバーに入ってもらって15年以上くらいになるのかな。今の5人体制のバンドに生まれ変わってからの方が長いんですよ。
個人としてはどうかな。それなりにいろいろ経験をしてきたもんですから、それなりにいろんなことがわかるようになった。何かのタイミングでころっと変わったわけではないかもしれないですね。40歳をむかえた時も、ああ、もう40かっていう感じはあったんですが、その程度でした。30と40というと表記的にはずいぶんちがう感じがするんですが、実際その線を越えてみると別に前の自分となんら変わるわけでもなく。
●歌詞を書く時の、インスピレーションの生み出し方とは?
苦労はしています。まずとっかかりを見つけるのに苦労するんですよね。とっかかりがあれば、スムーズにいきます。こればっかりは思い付きを待つしかない。世の中の人はふってくるっていいますけど、能動的に尻尾をつかもうとしないとなかなかふってはこないですよ。だからいろんなところにアイディアが落ちていないかつねに探している感じですかね。僕は本読みだし映画も好きなので、そこからアイディアを拝借することも多々あります。
本はそんなに速読タイプではなく、常に読んでいたいタイプ。同時に何冊も並行して読んでいます。トイレに1冊、ベッドに1冊、移動中に1冊とか、別の本を読んでいますね。頭の中もごっちゃになってくるんですけど、ただそれをパッパパッパ読むというよりは、トイレの時にだけ読む本は1度に2ページくらいしか進まず、しばらくその本には会わなかったりします。内容を忘れるとまた戻って読まないといけないので、なかなか読み終わらないことも多いですね。
日本も外国の作品もどちらも小説をよく読みます。あんまりエッセイは好きじゃないですね。ノンフィクション物はちょいちょい読みますけど。最近は「ハリガネムシ」という作品で芥川賞をとられた吉村萬壱さんが好きですね。
●歌詞に使われる言葉のセンスや表現には、どのようなこだわりがありますか?
いわゆる歌詞っぽいものを書こうとはしてないです。
音楽があってそこに歌詞をのせていくので、みんなで演奏しないとアイディアもでてこないですね。バンドの空気から自分がどういう情景をイメージするか、その楽曲を演奏しながらイメージにあらわれるキーワードをつかめるか。
最初に見えた景色と、あ、見えたぞこんな感じかなっていうイメージをひっぱってくると、全然違うものが出てきたりしますけどね。でもそれはそれでよしと。
曲はみんなで書くんですけど、歌詞に関しては僕だけが書いています。だからアプローチは歌詞を書くごとに変えようと苦労しています。視点であったり、人称であったり。イメージをあまり限定しないようには書いていますね。聴き手には音と一緒に雰囲気で受けとってもらえるのがいちばんいいと思います。そしてどこかの行で自分と照らし合わせられるような部分があれば、きっとその人の曲になるんじゃないかなと思います。
●過去の作品を自分で振り返ってみると、すごいなと思うことはあるんですか?
すごいセンスだなと思うことはあります。どういう脳の運びでこうなっているのだろう、すげえなこいつって思うことはちょいちょいあります。今ならこうは書けないし書かないだろうと思うことも多いですね。
●プライベートでの好きな過ごし方、はまっているものなどありますか?
ビールが好きですね。日本だったらキリンラガーが好き。あとクラフトビール屋さんも最近よくあるじゃないですか。輸入ビールがたくさん置いてあって、ああいうところに行くとすごくわくわくします。ラベルを見ているだけでも旅をしているような気になります。
昔小学生の頃にね、学校給食に出る牛乳キャップをめんこがわりにして対決するのが流行っていたんですけど、それがだんだん発展していって、地元にはないようなレアなキャップを持っているやつが現れたりして、それも僕すごい好きやったんですよね。いろんなところで作られた牛乳のふたを見ていると、それだけで旅気分になるという。それとクラフトビールもちょっと近い感じがありますね。
●仙台にはどんなイメージをお持ちですか?
年に2、3回は来ているので最近は慣れてしまいましたが、はじめて来たころは街の雰囲気がいいなぁって思っていました。
今日は久しぶりに泊まれるのでおいしいものを食べたいなと思います。
●今後の夢、展望をおしえてください。
バンドもここまで続くと引くに引けないところもあるし、逆にいうといつ解散してもおかしくない。できるだけ楽しんで続けられるようにしたいなと、ほんとにフラットにそう思っていますね。
●仙台・宮城の読者にメッセージをお願いします。
新曲「Arma」をぜひよろしくお願いします。現在制作中のアルバムはさらにバラエティ豊かな作品になると思うので、期待しといてください。これからも何度となく仙台に来ますよ。
●最後に、田中和将さんにとって“音楽”とは?直筆で書いていただきました。
なんでしょうね。あまり過剰な使い方をしていないというか。背中を押されるとかがんばれるとか、この曲聞いて元気を出すとかいうのが、まったく理解できない。もっといろんな複雑な感情がたくさんあって、そういうものを楽しみたいから聴いているんじゃないのかなって気がするんです。
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独特の空気感にすっかりやられてしまいました。けして高くはない温度感で淡々と、ゆっくり言葉を選びながら語られる思いが、じわじわ。気が付けば低温やけどのように、編集部の私の心にくっきりと跡を残していたのでした。それがGRAPEVINEの魔力そのものなのかもしれないな、とふと。そして本人たちがいちばん、その特別な力を自覚していない。だからこそただフラットに、音楽活動を楽しんで行ける。そんなGRAPEVINEがとらえたもっとも新しい情景「Arma」。さあ、あなたにはどんなシーンが見える?
CD情報
20th Anniverasry Limited Edition(CD)
VICL-37274/\1,400+税/4曲収録/特殊使用
通常版(CD)
VICL-37275/\1,000+税/2曲収録
M1.Arma
M2.Dhame
[BONUS TRACK]*20th Anniverasry Limited Editionのみ収録
M3.Big tree song(Hiroshi Takano remix)
M4.SPF(STUTS remix)
[20th Anniverasry Limited Edition特典]
■7inch サイズ紙ジャケット仕様
■折込ポスター
■クリアステッカーシート
ライブ情報
11月11日(土)盛岡 Club Change WAVE
11月12日(日)仙台Rensa
GRAPEVINE are
KAZUMASA TANAKA Vocal & Guitar
HIROYOSHI NISHIKAWA Guitar
TORU KAMEI Drums
SATORU KANETO Bass
ISAO TAKANO Keyboards
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