2018年からスタートした、仙台発の文学賞「仙台短編文学賞」。2019年3月に、第2回受賞作が決定し、4月13日(土)には、仙台文学館で授賞式が行われました。第1回目に引き続き、今年も、ジャンル不問で仙台、宮城、東北をテーマに作品を募集。選考委員は、仙台市在住の直木賞作家・熊谷達也さんが務め、応募総数324編の中から、下記6作品が賞に輝きました。
大賞 『ビショップの射線』
綾部 卓悦さん(28歳・東京都在住)
仙台市長賞 『西日の里』
高橋 叶さん(42歳・仙台市在住)
河北新報社賞 『梅と糸瓜と、福寿草』
斎藤 隆さん(64歳・山形市在住)
プレスアート賞 『風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―』
やまやしげるさん(70歳・大阪府在住)
東北学院大学賞 『長次郎の夢』
田中エリザバスさん(19歳・仙台市在住)
東北学院大学賞奨励賞 『落日と鬼灯』
水無月 恒さん(18歳・登米市在住)
(年齢と居住地は発表時点)
大賞 綾部 卓悦さん
綾部卓悦さんは、群馬県前橋市出身。システムエンジニアとして約1年半、仙台で生活した経験を持ち、「仙台は第2の故郷」と語ります。今回の受賞作『ビショップの射線』の舞台は、震災後の仙台市内のとあるチェス倶楽部。地震の影響で石巻の実家の一部が壊れたものの、津波被害には合っていない女子高生の「詩織」と、震災後に転勤で仙台にやってきた青年「恭一郎」が、チェスの対戦を通して、震災への想いや自分なりの考え方を明らかにしていきます。いわゆる “被災者” ではない詩織と恭一郎が、「仙台」という場所で感じている居心地の悪さをテーマにした作品です。
―受賞にあたって
「正直、バッシングを受けるんじゃないかという気持ちで書いた作品でした。でも(大賞を受賞したことによって)、“それでもいいんだ”という風に肯定していただいたような気もしています。しかしそれと同時に、誰かの心を傷つけてしまうような小説を書いてもいいのかという迷いがまた新たに生まれて、いろんな想いが自分の中に芽生えました。ただ、(大賞受賞は)大きな自信にはつながったと思っています。僕は、プロの作家を目指しています。6年でプロになるという目標を立てて、今ちょうど折り返し、4年目に入ったところです。(中略)これからの心の支えになるような栄誉ある賞をいただき、とてもうれしく思っています。ありがとうございました」
―登場人物の恭一郎と、ご自身を重ねた部分はありましたか?
「半分くらい重ねた部分もありました。でも、“仙台は息苦しい場所だ”ということをメインに描きたかったわけではないんです。“ここには、詩織ちゃんのような子がきっといる”と思ったので、そういう子たちに少しでも楽になってもらいたくて書いた作品です」
―綾部さんにとって文学とは?
「楽しいものでありたいと思いますが、その楽しさの中でも、誰かの心を救えるものにしたいと思っています」
プレスアート賞 やまやしげるさん
やまやさんは宮城県白石市出身。高校生卒業まで、白石市で暮らしていました。プレスアート賞を受賞した今作『風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―』は、震災直後の宮城県に帰郷してくる1人の男性が主人公。4人兄弟である主人公の家族の思い出を振り返りながら、今は誰も住んでいない実家に1人帰ることの喪失感を、切なくも温かく表現しています。
―受賞にあたって
「私は、小説のタイトルにドヴォルザークのピアノ五重奏を付けました。私の知り合いが京都市交響楽団でヴィオラを弾いていまして、そのコンサートでこの曲のイントロを聴いた時、すごく懐かしく、胸に迫るものがありました。実は、私の兄も時々、この曲を聴いていたんです。(中略)私の実家は白石なので、震災の大きな被害はありませんでしたが、もちろんすごくショックな出来事でした。でも、私には何もできないし、どう表現していいか分からない思いが強かったんです。口では“大変だったな”と簡単に言うことができるけど、私がそう言っても、(辛い想いを抱えている人たちには)上手く伝わらないだろうと思いました。でも、小説にすれば、伝わるんじゃないかと考えたんです。つたない小説でも、文章にして伝えないと伝わらないこともあると思います。だからこれからも、そういう想いを小説にして書き続けたいと思います」
―作品はやまやさんの実体験で書かれたのですか?
「基本は創作の内容ですが、物語に出てくる実家は私の家がモデルですし、4人兄弟も私の本当の兄弟たちがモデルになっています。作品でも描きましたが、震災後、誰もいないシンとした実家に帰ると、子どもの頃、家の中で兄弟みんなで走り回って騒いだことを思い出して、喪失感をより強く感じるようになりました。賞を受賞してもその気持ちは変わりませんが、“誰かに共有してもらえた”という充足感を感じています。今、寂しさを感じている方がいれば、この小説を読んで、一緒に“共有”してもらえたらと思います」
―やまやさんにとって文学とは?
「上手く言えないんですが…、口にしたら一言で済むことを、そうじゃない方法で表現する手段です。小説家は、伝えたいことを場面の描写や登場人物のセリフなどを通して、一つずつ説明しますよね。そういうものである小説が、私にはとても大事なんです」
ーーーーーーーーーー
自分の気持ちを、文章にする。簡単なようで、とても難しい作業をやり遂げ、たくさんの人の心を動かす作品に仕上げた受賞者の方々は、大きな功績を残したと言えるでしょう。「仙台短編文学賞」の歴史は、まだ始まったばかり。この文学賞がこれから、どのような物語を生み出していくのか、長く追い続けていきます。
☆記事の中で紹介した、綾部さんとやまやさんの受賞作品は、Kappo5月号に掲載しています。Kappo5月号は、マチモールでも購入できます。ぜひチェックしてください。
仙台市内に本社を置く「荒蝦夷」「河北新報社」「プレスアート」がつくる実行委員会主催の文学賞。2010年秋に構想を開始し、2011年4月に公式発表を予定していた中、東日本大震災が発生。それから7年の月日が経った2018年に、再び実行委員会が集結し、第1回目がスタートした。
第3回目の募集期間は、2019年7月1日(月)~11月15日(金)。選考委員は芥川賞作家の柳美里さんが担当。応募作品は、ジャンル不問で仙台、宮城、東北に関連する未発表小説が条件。詳細は下記公式サイトへ。
あなたがもしも小説家だったら、どんな物語を書いてみたい?