2018年09月06日
TALK Vol.10 映画「寝ても覚めても」 濱口竜介監督
-各界で活躍されている方にインタビュー。すてきに生きるヒミツを探ります。
Vol.10 濱口竜介監督さん

 

――違う名前、違うぬくもり、でも同じ顔。運命の人は二人いた。

 芥川賞作家・柴崎友香さんによる珠玉の恋愛小説が原作の映画『寝ても覚めても』。監督・脚本を務めたのは、今作が商業映画デビュー作となる濱口竜介監督です。濱口監督は2013年、酒井耕監督とともに、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方に伝わる民話を記録した『うたうひと』の「東北記録映画三部作」を発表。2年間にわたり、東北地方で暮らしながら人々の“語り”を記録し続けました。
 そして濱口監督は、ラブストーリーとなる今作でも“東日本大震災後の日常”を描いています。実際の被災地である宮城県名取市でも撮影が行われ、地元住民らを中心に約100人のエキストラが参加しました。東北に寄り添いながら映画を撮り続ける濱口監督が今作の映画化に取り組んだ理由や、名取市の撮影で印象的だった出来事などについてお話を伺いました。

 

 

Story

東京。丸子亮平(東出昌大)は勤務先の会議室へコーヒーを届けに来た泉谷朝子(唐田えりか)と出会う。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、2年前に朝子が大阪に住んでいた時、運命的な恋に落ちた恋人・鳥居麦(東出昌大二役)に顔がそっくりだったのだ――。

 

 

 

現実と非現実の境が曖昧なこのストーリーは、
映画にした時により面白くなる。

 原作を“最高の恋愛小説”と評し、自ら映画化を熱望したという濱口監督。東北記録映画三部作発表前の2012年の終わり頃から2013年の始め頃、仙台滞在中に原作小説を読み、そのストーリーにとても驚いたといいます。

「この物語は思いもかけない展開がどんどん続いてきます。柴崎さんが書く小説は、自分たちと同じように町に人が生きている感じがする点が魅力なんですが、この作品では、その町に生きている女性の下に昔好きだった男性とそっくりな顔をした別の男性が現れるという、現実にはあり得ないような荒唐無稽な展開があって、現実と非現実が同居した曖昧な感じがすごくおもしろいと思いました。それに、“そっくり”という要素は、映画にした時によりおもしろくなるのではないかと感じました。」


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

 

震災があったこと、
そして今日まで続く日常を描きたかった。

 構想から完成までにかかった時間は4年近く。2017年夏の1ヵ月間にわたる撮影期間中に、名取市でも撮影が行われました。なぜ名取市をロケ地に選んだのか、その理由を伺ってみました。

「防潮堤が見える場所で市場のシーンを撮影したくて、カメラマンやプロデューサーと一緒に沿岸部を回ってロケハンをしたんです。そもそもそのシーンは、2015年くらいに偶然目にした名取の防潮堤の景色を思い出して書いたシーンでもあったので、ロケハンで名取を訪れた時も想像していたイメージにすごく近くて、すぐにその辺りに市場があるかどうかを調べました。そしたらゆりあげ港朝市という市場があることが分かり、電話で撮影の相談をしたんです。そしたら二つ返事でOKしてくれて、ここしかないなと感じました。被災地を映画に映すことって、とても怖いことなんですよね。見ている方がどういうお気持ちになるのか全然分からないので。でも朝市の皆さんに撮影を快諾していただけて、励みになりました。」


©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

 

 映画のオリジナルストーリーでは、東出昌大さん演じる“亮平”と唐田えりかさん演じる“朝子”の関係が、東日本大震災の発生を機に一気に進展します。そしてその5年後、亮平と朝子が被災地の市場でボランティアとして働くシーンが、ゆりあげ港朝市で撮影されました。濱口監督はこれらのシーンを通して、震災をどのように描きたかったのでしょうか。

「地面が揺れた瞬間とか、津波の瞬間を描くというよりは、そういうことが現実に起きたという事実と、そしてその事実が今の日常に続いていることを映そうとしました。原作は1999年から2008年の話なのでもちろん震災については描かれていませんが、9.11(2011年のアメリカ同時多発テロ事件)のことが書かれていたり、実際に起きた小さな地震のことが書かれていたりします。パーソナルな恋愛話の中に、社会の流れが同時に走っている描写は映画でも受け継ぎたいと思っていたので、共同脚本家の田中幸子さんに相談したところ、ストーリーの中に震災の描写を加える提案がありました。その時は“このテーマを扱いきれるだろうか”とだいぶ考えたんですが、逆にその部分を消してしまうことの方に違和感がありました。それでそのまま残すことに決めましたが、ドキュメンタリー(東北記録映画三部作)を撮ったことで僕にも顔が浮かぶ東北の方たちがいるので、その方々の顔を歪めないようにしたいと思って撮影に臨みました。」

 

驚くような決断なのに、なぜか腑に落ちる。
それってものすごい体験だから、映画でも表現したかった。

 名取で行われた撮影は2日間。地元のエキストラ約100名が参加したゆりあげ港朝市のシーンのほかにも、同朝市協同組合員が出演する宴会シーンの撮影などが行われました。濱口監督は、“どうしてこんなに良くしてくれるんだろう”と思ってしまうほどの地元の協力体制が一番印象に残っていると振り返ります。

「宴会の撮影は夜遅くまでかかってしまったんですが、現場は終始笑いが絶えず、雰囲気が悪くなることは一度もありませんでした。こちらが助けられているにもかかわらず、常に僕たちを気遣ってくださいました。」

 さらに濱口監督は、自身の思い入れのあるシーンとして名取で撮影した重要なカットを挙げてくださいました。

「思い入れがあるのは、終盤に差しかかった場面で出てくる朝子の顔のショットです。“これはすごい顔だ”と思いながら撮影していました。何も説明がないのに、“この人の中で何か起きたんだな”ということが分かる表情を撮れたことは、とても思い出深いです。その後ラストでまた別な朝子の顔が映るんですが、その時もすごい表情をしています。表情の変化も合わせて、ぜひ見ていただきたいです。
 朝子はとにかく観客を驚かせる決断を繰り返します。でもなぜか、“確かにそうだよな”と納得してしまう。それはなぜかというと、同じ顔をした2人が本当にいるかどうかは別として、もしも同じ顔の2人と出会ってしまったら混乱して、周りが驚くような選択をしてしまうのは当然のことと思われました。原作を読んだ時も、この点はとても腑に落ちましたね。“驚くのに納得できる”というものすごい体験を、何とか映画でも表現したかったんです。荒唐無稽な展開ではありますが、“もしかすると自分の身にもこういうことが起こるかもしれない”という気持ちで見てもらえたらうれしいです。また、宮城に住んでいる方にとっては馴染み深い場所が登場するので、より自分たちの生活に引き付けて見ていただけるのではないかと思います。」

 

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 濱口監督は、震災という出来事の後に続いている今の日常を、映画の中で描こうと試みました。“震災”とは何か、“日常”とは何か。震災から7年半が経過した東北に生きる私たちは、これらの問いにどれほど向き合えているのでしょうか。
 震災後の日常を生きる朝子や亮平たちは、恋愛の困難さに直面しながらも、苦悩と覚悟を繰り返して成長していきます。この物語のように、現実には起こりえないと思うような出来事が自分の身に起こったら、あなたは一体どう判断し、行動しますか?ぜひこの映画を見ながら、考えてみてください。

 

映画『寝ても覚めても』

公式サイト http://netemosametemo.jp/

9/1(土)~MOVIX仙台、MOVIX利府、ユナイテッド・シネマ フォルテ宮城大河原
10/19(土)~イオンシネマ石巻ほか、全国公開

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